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八ヶ岳の伝説の紹介

牛山 晴幸

 縄文の大地からメッセージ「日本文化のルーツ、縄文文化の魅力を世界に発信」の中に、「八ヶ岳と富士山の背比べ」という民話の抜粋が掲載されています。
 ホームページにかかわった私は、このお話に郷愁を感じました。
心の琴線に触れられる人、全文を読んでみたいと思われる人など、いらっしゃるのではないかと考えて、この「民話」を投稿することにしました。
 「会員の声」にはなじまない、とのご指摘はご容赦ください。
 似た話が沢山ある「民話」や「伝説」の中から、半世紀以上前にお世話になった恩師、竹村良信先生がまとめられた『諏訪のでんせつ』に収められている「八ヶ岳と富士山」を紹介します。


八ヶ岳


八ヶ岳と富士山

 ずっと、ずっと大昔のお話です。
 八ヶ岳が浅間山のように、もうもうと煙を、はきだしていたころのことです。
 そのころは、富士山もやはり、もくもくと煙をはいていました。
 富士山は、女の神様ですが、たいそういばることが好きでした。
 いつもまわりの山々に向かっては、
 「見たところ、私が日本一高い山のようですね。雨でも、雪でも自由に降らすこと ができますよ。えへん。」と、高い鼻を、ツーンとさせて、得意になって、自慢していました。
 ある日のことです。いつものように雲の上から、「えへん、私は日本一高いですよ」と、いい気分になって、言いふらしていました。
 すると、とつぜん、遠くから、「日本で一番高いのは、このわしじゃ」と、ごぶとい声が、とんできました。
 ”まあ、失礼な。いったい誰でしょう。” 富士山は、その声がする、北のかなたをみすかしました。
 それは、雲の上へ、ちょこんと頭をだしている八ヶ岳の神様でした、
 「まあ、八ヶ岳の神様、なにをおっしゃるの。私が、日本一高い山にきまっているじゃありませんか。」富士山は、ぐっと、背伸びをして言いました。
 「いやいや、とんでもない、わしが日本で一番高い山だ。」八ヶ岳も、負けずに肩をいからせて、言い返しました。
 「いいえ、私です。」
 「いや、わしじゃ。」
 富士山と八ヶ岳は、おたがいに、自分の方が高いんだと言い合って、一歩もひきません。顔を真っ赤にして、ぐっと、にらみあったままです。
 こんなことが、五年も、十年も続きました。
 このようすをごらんになった、阿弥陀如来様は、
「神様どうしが争いをするなんて、本当に困ったものだ。」と、顔をしかめました。
 なにか、いい知恵はないものかと幾日も考えました。
 ”ああそうだ、これはよいぞ” 阿弥陀如来様はポンと手を打ちました。
 それは、富士山から八ヶ岳まで、長いトイをかけて、水を流すのです。水は正直ですから少しでも低い方へ流れます。そっちの山の方が、低いことが決まります。
 さっそく、阿弥陀如来様は、トイを作りはじめました。長いトイですから、なん日もかかって、やっとのことで、仕上げました。
 トイは富士山のてっぺんから、はるかかなたの八ヶ岳のてんみねまで、かけられました。まるで、一本の橋のようです。
 さあ、いよいよ水を流すばんです。富士山と八ヶ岳の神様は、じーっと、見守りました。
 阿弥陀如来様、トイの真ん中から静かに水を落としました。
 さあて、水はどっちへながれるでしょうか、、、、
 あっ! 水は、ピシャ、ピシャと音をたてて、どんどん富士山の方へ、流れていきました。富士山が低いことが、はっきりしました。
 さあ、大変です。富士山はだまっていません。
 「そんなことがあるもんですか、、、。」髪をふりみだし、カンカンに怒りました。富士山は、女の神様ですが、負けず嫌いでした。
 「ああ、くやしい!」いきなり、ありったけの力で、八ヶ岳を蹴飛ばしました。
 ガアーン!
 天も地も、こわれてしまったかと思われるほどの、もの凄い音がしました。
 ザア、ザア、ザア、ザア。ガラ、ガラ、ガラ、ガラ。
 八ヶ岳が頂上から、崩れ落ちました。なん日も続いて、やっと、止まりました。
 そのために、八ヶ岳は八つにさけて富士山より、低くなりました。
      
      竹村良信著『諏訪のでんせつ』発行所信濃教育会出版部より 


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