―信州への思いと藤森英二さんの新刊本―
2017年07月25日
神尾 明
東京生まれで東京育ちの私が定年退職後に原村へIターンしたのはなぜなのか? 地元の人に良く聞かれます「何でこんな寒い所に来たんだね?」、と。「なんとなく信州が好きだから」、と答えるしかありません。事実、若い頃から信州は肌に合っていて、木曽、開田高原やマイカー規制の無かった頃の上高地や乗鞍などへ良く行っていました。強いて言えば、それらしき「縁」もありました。一つには、祖母が松本生まれだったこと。もう一つは、小学生の時に、諏訪マチ子、藤森耕三と言う信州にゆかりがありそうな名前の先生がいて、忘れられない思い出があるのです。諏訪先生は若くてボーイッシュなきれいな方で、「わが身をつねって人の痛さを知れ」と教えてくれました。「二十四の瞳」の大石先生のようなとても良い先生でした。対して藤森先生は(長野生まれだと言っていた)、えこひいきするとても嫌な先生で、私やその当時の悪童にとっては嫌われ者でした。ある日、授業中に後ろの席から私の背中をつつく悪童がいて後ろを振り向くと、いきなり脳天に衝撃が走りました。藤森先生がつまんだチョークを私の頭の上にガツンと振り下ろしたのです。チョークの欠けらがボロボロ落ちて涙が出ました。その痛さと屈辱感と誤解された悔しさからで、子供心にとても傷つきました。フジモリコウゾウという名前は50年以上経った今でも忘れません。諏訪に来て初めて藤森栄一の名前を知った時、フジモリコウゾウを思い出して苦笑してしまいました。
さて本題は、同じ藤森姓でも藤森英二さんの新刊本の紹介です。
藤森栄一のお孫さんで北相木村考古博物館に勤められている若き考古学者の藤森英二さんが、「信州の縄文時代が実はすごかったという本」という本を、信濃毎日新聞社から3月に発刊されました。縄文初級で万年入門者の私が読んで、とてもわかりやすいと思いました。信州から関東西部にかけての縄文中期の文化を戸沢充則は「井戸尻文化」と唱えていて、この本の著者は、その井戸尻文化圏の特に八ヶ岳を中心にした縄文中期の文化について、平易な言葉で解説しています。中高生なら入門書として、上級者なら最近の研究成果を含め自分の知識を再確認する意味で役に立つと思われます。尖石考古館でも販売されています。
税込2160円で、全ページ写真・図解入りなのでコストがかかっていると思われます。専門書にありがちな小難しい用語や言い回しが無く、構成も的確です。特に中高生にはこの夏休みに読んでみたらいかがでしょうか。巻末には八ヶ岳周辺の縄文遺跡・考古館巡りのガイドも載っています。
専門知識に疎い私ですが、この本で感じたことは、
1.ロマンあふれる解説が楽しいし、文章が巧み。さすが祖父のDNA でしょうか。
2.老考古学者の中には物事を見てきたように断定してしまう人がいてびっくりしますが、この著者はそんなことはもちろんしないし、人の意見は意見として尊重して扱っています。
3.端的で親しみやすい見出しがとても効果的。
4.新聞社の発行らしく特に句点の使い方が的確。だから読みやすい。(句点は本来とても重要なのですが、その使い方は学校ではあまり教えないし、文筆家・小説家でさえいい加減な人が少なくないです。)
5.巻末あとがきの、最後の文が泣かせますよ。
以 上